蝶ヶ岳(厳冬期天泊) 2677m  08.02.09-11
2日目 08/02/10(日)
徳沢              7:30
2000m地点         9:55
長塀山            14:00
蝶ヶ岳            16:00
4時に起床。「星空だよ!」との声にテントの外に首を出すと、満天の星たちが瞬いている。

テントの内側は霜で覆われていた。ゴアとはいえ、この空間に2人で居て、煮炊きでも湯気をけっこう出していたから仕方ないか。 私のシュラフはダウン量600gと180gの2つを重ねて使用。足の指先が冷たかった以外は快適。今夜はテントシューズを履こう。

朝食はたまご雑炊 朝食準備

足もとに敷いたザックに付けていた温度計は−12℃を指している。実際はもう少し低いのだろう。嫌々シュラフを出て、朝御飯とテルモス用のお湯を沸かす。

朝食はたまご雑炊。
アルファ米+たまごスープ+乾燥雑炊の具+調味料少々。

テント内部で大体のパッキングを済ませて寒い寒い外へ。積雪は10−15cmほどで予想より積もっていなかった。雪は息を吹きかけると粉のように白煙になる。

他のテントを数えてみると我々を含めて6張りほど。あの広い天場には少な過ぎるが、道沿いに張られているので、 トイレに行くついでに情報収集。すると隣(けっこう離れているが)の山の会の方々は、日帰りで蝶へ行くとのこと。 (わーやったー!)と小躍りしそうになったのだが、よく話を聞いてみると「横尾経由でね」だそうだ。喜び損。

というか、横尾経由で蝶の往復なんて、このコンディションでは無理なんじゃ? 昨日から変に思っていたが、蝶を目指す大体の人が横尾経由という回答。積雪期の蝶のレポを検索すると、 長塀尾根からが多かったのになぁ、と不思議。この長い尾根を積雪期に歩くことが大変だ!との認識が大勢を占めているらしい。

テント撤収中にふと温度計を見ると−27℃!?。−50℃まで計れる精密温度計なので間違っていないと思うが、こんなに下がるものなのか。 テントはバリバリに凍り、たたむとかさが増している。昨日はだいぶお腹に詰め込んで、私の荷物が軽くなったので、ポールと外張りを持った。

スノーシューを履いて雪原の中心まで行くと、明神と前穂が雪煙をあげて輝いている。これには登高意欲がかきたてられる。

−27℃!記録更新! 明神と前穂が輝く パッキング終了
−27℃!記録更新! 明神と前穂が輝く パッキング終了
後ろの山は霞沢岳方面

眩しいほどの青空は嬉しいことだが、その反面気はあせる。今日は長丁場なので6:30出発の予定だったが、1時間遅れの出発になってしまった。 雪の天泊は慣れてないとはいえ情けない。スノシューを装着したまま登ることにする。

長塀尾根は昨日の学生2人組のトレースが残っていたし、私のスノーシューの方が登攀性が高いモデルなので先頭を行く。 よーし行ったれー!と急登をガシガシ進む。今日の私は調子が良さそうだ。ただひたすらに登り続けると、「長塀山へ」と文字が消えかかった小さな道標があった。 ここで前方は数m下り、また上がるような平坦地になる。地形図で確認していた2000m地点らしい。

長塀尾根入口 標高差450mの急登をひたすら登る 最初の道標 2000m地点
長塀尾根入口 標高差450mの急登をひたすら登る 最初の道標 2000m地点

ここで大休止。ここからは斜度が緩やかになるので、スノーシューの性能も関係無いかなと、しげぞさんに前を行ってもらうことにした。

なーんて余裕に思っていたら急に私の方がペースダウン。足が重くなって遅れ気味になった。 ひーひー登って行くと、前方の斜面で妙に背が低くなったしげぞさんが動かなくなっている。 地図でも見てるのかな?とのんびり登って行くと、雪の窪地で、もがいていらっしゃる。 穴にハマってずっと抜け出せなかったらしい。(前を行ってもらってよかったなぁ)と思ったのはナイショ。

トレースの上に新雪がのる 力強く前を行く人 先行者の天場跡で休憩
トレースの上に新雪がのる 力強く前を行く人 先行者の天場跡で休憩

2人組の学生達の天場跡は、2162m付近の空がぽっかり空いた、木々からの落雪が無い場所だった。 昨日の天気でよくここまで登ってきたもんだと感心する。

天場跡で休憩後、またひたすら樹林帯を登り続ける。しばらく行くと上方に低木地帯の斜面が見え、「めっちゃきれー!」と叫ぶしげぞさんの姿が。 やっとこさ登って行くと「ここまできてから振り返ってみて!」との指示通りにしてみると、「おぉー!」と私も声をあげることになった。

穂高と上高地 新雪が載った針葉樹の森の向こうには、谷間に蛇行して伸びる梓川と、ぐんとせり上がった白銀の穂高が、とにかく眩しく輝いている。

5時間登り続けてやっとこの景色に出会えた。まったく骨太なコースだ。

→霞沢岳・焼岳拡大

ここから展望が続くのかと思いきや、また樹林帯の道が続く。長塀山は雪で埋もれているのかピークを示す標識も無く、枝葉の隙間からちらほらと穂高が見える程度だ。

さて今日は途中で張る予定でいたが、2582mの左へ曲がるポイントで、樹林間から蝶ヶ岳の山頂とヒュッテが近くに見えた。 テントの設営時間とヒュッテの冬期小屋に泊まることを考えたら、時間的には同じだなと判断し、先の窪地で待っていたしげぞさんにそのことを伝えると「やった〜」。

昨日から冬期小屋まで行きたがってた様だしね。踏み固めてもらっていた場所にザックを下ろし最後の休憩だ。

長塀山の前後にはこの様な幕営適地が幾つかある 徳沢からの日帰り組はここで帰っていった 長塀山 地図を見ていなければ気付かないだろう
長塀山の前後にはこの様な幕営適地が幾つかある 徳沢からの日帰り組はここで帰っていった 長塀山 地図を見ていなければ気付かないだろう

地形図では池が点在しているだろう雪原を通り、ひと登りすると、やっと目の前が開けて樹林帯を抜けた。

目の前には、雪との8時間の格闘の後でしか見られない世界が広がる。

蝶ヶ岳へ 穂高−槍 妖精の池から
蝶ヶ岳へ 穂高−槍 妖精の池から →拡大

穂高岳 足跡を振り返る
穂高岳 足跡を振り返る

そして蝶ヶ岳へは午後4時登頂。

蝶ヶ岳にて 北アルプスに囲まれて。
蝶ヶ岳にて 北アルプスに囲まれて。

松本側は雲が溜まり雲海になっていた。逆光の槍と穂高は荘厳な姿を目の前に見せ、その美しさに声も出ない。 常念、大天井と続く白き稜線は、もしかしたらいつの日か歩ける時が来るのかも?と思わせてくれる。

この時期では穏やかな風であろう山頂で、互いに良き日を喜び合う。

槍ヶ岳 常念岳
槍ヶ岳 常念岳 →拡大

展望をひとしきり楽しんでから蝶ヶ岳ヒュッテへ。小屋周辺には踏み跡が全く無く、学生達の足跡はまっすぐ常念へ向かっていた。 冬季小屋の入口を探し出し、徳沢からずっと履いていたスノーシューをやっと外した。

冬期小屋の入口

入口の扉は異常に重く、備え付けのスコップをつっかえ棒にしてから中に入った。

デカザックで這いながら中に入る。中は8人ほどが寝られる板間があり、トイレも内部にあって快適な空間だ。
冬季小屋の入口

小屋の中に荷物を下ろし、板間にマットを敷いてから、夕暮れの山稜を眺めにまた外へ出た。 風は穏やかといっても露出部は刺すように痛い。シュカブラの向こうに常念がふわっと浮かぶ写真が今日のいい絵かな? 贅沢を言えばコンデジなのが残念だが、この絵をこの目で見られたことが素晴らしいことだ。

蝶ヶ岳とヒュッテ 瞑想の丘から 落日
蝶ヶ岳とヒュッテ 瞑想の丘から 落日

日が沈みきる前に小屋の中に戻って水作りを急ぐ。暗くなってから登山者が1人到着した。 話を聞くと徳沢から10分ほど登った尾根の途中に張られていた方だった。

夕食はシチュー。大量に作ってきたペミカンで具沢山になり、パンケーキと、チーズと生ハム(しげぞさんご提供)が並ぶ豪華な夕げ。 生ハムは凍っているのを剥がして口の中で溶かしながら食べた。体が相当に疲れ、あちこち痛い。 こんなに疲れたのは久しぶりだったが、広々とした小屋の中では、体が自由になりそれがとても楽だった。

メインはホワイトシチュー 食後は焼酎 これが問題の瓶 内部 テントは単独男性の物
メインはホワイトシチュー 食後は焼酎 これが問題の瓶 内部 右のテントは単独男性の物

ぎりぎりまで行動したので、夕げの後の時間は少ない。たわいのない話と明日の行程を話していたら、時間はすぐに過ぎていった。 今夜は相当に寒くなりそうだ。すでに小屋内の気温は−15℃。ダウンを着てテントシューズを履いて、寝るのも戦闘態勢のよう。

シュラフに潜りこんだのは午後8時半頃だった。
3日目ヘ 北アルプスヘ