谷川連峰馬蹄形から平標山 06.11.03-04

2日目
茂倉岳避難小屋(05:05)−一ノ倉岳(05:40)−谷川岳オキの耳(06:35/55)−肩の小屋(07:10/15)−
万太郎山(09:50/10:00)−仙ノ倉山(12:40/50)−平標登山口(15:05)
標準CT合計:9時間45分

いつものように携帯電話のバイブで目が覚めた。しばらくだらだらとしてシュラフを出たのは3時45分頃。用意していたコッヘルと水を持って小屋の外に出た。 外は微風で暖かい。剥き出しの地面がバリバリとしていたので0℃ぐらいか。苗場山方面にオレンジ色の月が水平に浮かんでいた。 ラーメンが出来上がる頃、月が沈んで空の星がいっせいに輝きだした。目の前にオリオン座の絵が掛かる食卓もなかなかなもんだ。

小屋の中に戻ると2,3人の登山者が起きだしていた。目標の5時に小屋を出てストレッチを念入りにしてから出発する。 茂倉への100mの登りが意外に堪える。予定では今日のCTは約10時間。バスと電車の時間を考えると、またきつい一日になりそうだ。

一ノ倉岳山頂の避難小屋は地図にある通り小さい。人が寝ているかもしれないので内部は見てみなかったが、さすがにここで寝るのは寂しい。

夜明け前の谷川岳(一ノ倉岳より)

トマの耳は絶えず雲に巻かれ、オキの耳だけがピンと立っていた。

今日は群馬側に雲が溜まって雲海になっている。谷川岳が染まる時間まで待とうかと思ったが、早く出た意味がなくなるので下ることにした。
夜明け前の谷川岳

ノゾキまで下りるとガスに巻かれ一気に寒くなった。強風というほどでもないが、ガスは水気を含み体のあちこちが濡れていく。 絶壁を見下ろすと灰色の雪渓の残骸が見え、前シーズンの雪の多さがうかがえる。

茂倉岳と一ノ倉岳 茂倉岳と一ノ倉岳

奥宮を過ぎてオキの耳に立つ頃にガスの上に出た。振り返ると朝日が一ノ倉岳を真っ赤に染め上げていた。

あの稜線で避難小屋の他の宿泊者たちが、朱に染まる谷川岳を眺めていることだろう。その景色を見られないことが少し残念な気もしたが、その中に居ることにも満足していた。

オキの耳 朝日。雲海が目線と同じだ ブロッケン。ガスかかる朝夕の定番
オキの耳 朝日。雲海が目線と同じだ ブロッケン。ガスかかる朝夕の定番

オキの耳では雲海の上に出た太陽が眩しくこちらを照らしていた。肩の小屋から空身で来ていた登山者と素晴らしい朝を喜び合う。トマの耳には雲が襲いかかっているようで姿形を変えながらまとわりついている。

さて、これから進む平標山へのまっすぐな尾根に目を移すと、稜線が雲海のダムとなって雲が流れ出ているように見える。万太郎山・仙ノ倉山の頭は見えているが、長い時間を雲の中を歩くことになりそうだ。

トマの耳 オキの耳より 谷川岳から平標山へ伸びる尾根
トマノ耳 オキノ耳より 谷川岳から平標山へ伸びる尾根

肩の小屋では薄日が見え隠れし視界がほとんど無い。外に2つあるコイン制のトイレを借り、靴の紐を締め直して準備万端。いよいよ平標まで続く尾根に歩き出す。

最初はゆるやかな笹原の下りが続き、程なくヤセ尾根の岩稜まじりの道になった。周囲はだんだんと暗くなり、オキの耳から眺めた雲の下を歩いているだなと実感する。

オジカ沢の頭でこの尾根に入ってから初めての登山者に出会った。ここではない避難小屋で泊まったらしいが、雲の中であることを悔しがっている。もう少し天候の回復を待ってみると苦笑いの彼と別れた。

肩の小屋から万太郎山まで6.5km 笹原の次はヤセ尾根 オジカ沢ノ頭
肩の小屋から万太郎山まで6.5km 笹原の次はヤセ尾根 オジカ沢ノ頭 真っ白

オジカ沢ノ頭避難小屋 小障子ノ頭へ 左右は深い谷に落ち込んでいる
オジカ沢ノ頭避難小屋 内部 小障子ノ頭へ 左右は深い谷に落ち込んでいる

大障子ノ頭への道

オジカ沢ノ頭を下っていると、まだ雲の下ではあったが周囲のガスが流れ去り、周りの景色が見え出した。左右は深く谷へ落ち込み、深い深い山の中を歩いていることが判る。

小障子ノ頭を超えると大障子の避難小屋が彼方に見える。後の万太郎山が雲の中で残念だが、これほど笹原の尾根が続くことに感心する。
大障子ノ頭への道

大障子避難小屋 大障子避難小屋

内部は広く、この尾根の中では一番小屋らしい小屋だった。小障子の登りで出会った2人組に聞いたところ昨夜は7人ほど泊まったらしい。 昨日の晴天でこの尾根の歩きも素晴らしかったに違いない。

大障子ノ頭を超えると目の前には雲に覆われた万太郎山の山腹が見える。右から繋がる尾根からすると大きな山だ。昨日の天候を考えれば今日の雲空は仕方ないと諦めが早かった。 周囲の視界はあったので、これはこれで良しと黙々と歩く。

ところがだ。鞍部にさしかかった時、ふわっと前方が明るくなり万太郎山が青空と共に見事な姿を現した。あまりにも突然のことであっけにとられて立ち尽くす。 これほど立派な山だったとはと驚き、見上げながらしばらく見惚れた。

突如現れた万太郎山 突如現れた万太郎山

笹原の緑がハイマツの様にも見え、どこかアルプスの一峰にも見える。青空への急登を登っていると、夏のアサヨ峰を思い出した。山が似ているというより、静けさと青空に向かって登った記憶が重なったんだと思う。

煙のようなガスが巻く万太郎山の頂上で昼食にした。三角点に腰を降ろし小さなクリームパンを食べながら想いを噛みしめていた。

この馬蹄形と谷川から平標は、いつの日か必ず歩きたい、そして、歩く時は単独で行きたい、と想い続けていた。何人かで歩くのが嫌いという訳ではない。しかし想いの強い山ほど初めての時は1人がいい。 単独の時に感じる山の匂いと静けさは、気の合う山友だったとしても、これほど感じることはできないと思う。そしてこの2日間もその通りとなり、山に浸りきった山行になった。

万太郎山がこの尾根の主峰だと思いながらガスる稜線を下りていくと、だんだんとガスが取れていき、越路避難小屋近くになって前方の見晴らしが利くようになった。

美しい稜線が雲の中に続いている。ああ、また感嘆する。仙ノ倉山がエビス大黒ノ頭を従えて、谷川連峰最高峰の威風を見せて前方に壁のような姿を見せていた。 先ほどまでは「この尾根の盟主は中央に位置する万太郎山だ。」と思っていたのに、万太郎山側から見る顔は平標山から幾度も登った姿からは想像もできない神々しさがあった。

左にエビス大黒ノ頭、右に仙ノ倉山 左にエビス大黒ノ頭、右に仙ノ倉山

仙ノ倉山の山頂部は雲がかかっていた。しかし巻くことを知らないヤセ尾根が山頂まで続くこの姿を見てしまうと、今まで平標からしか登っていなかったことが恥ずかしくなるほどの山容だった。

あまりの気持ち良さに酔いまわるようにぼーっと歩いてたが、エビス大黒ノ頭への登りで我に帰る。いやはや、今日も馬蹄形に比べて遜色の無い歩き甲斐があるコースだ。

越路避難小屋 毛渡乗越(越路)から見上げるエビス大黒ノ頭 左右は深い谷に落ち込んでいる左はウラエビス大黒沢へ切れ落ちている
越路避難小屋 内部。地図には7人とあるが、かなり窮屈になる。 毛渡乗越(越路)から見上げるエビス大黒ノ頭 左はウラエビス大黒沢へ切れ落ちている

万太郎山へ続く道

振り返ると晴れ間が広がった今日一番の青空。万太郎山がどっしりと重厚な山容を見せている。

今まで仙ノ倉山から見た谷川方面はいつも曇り。この姿を一度でも見ていたら、もっと早くこの尾根を歩いていたかもしれない。
万太郎山へ続く道

エビス大黒ノ頭では雲に隠れていた仙ノ倉山も、避難小屋がある鞍部まで下りてくると山頂が晴れて道が見えてきた。まだ6人しかすれ違っていない。残された静かな道を惜しむように、何度も振り返りながらゆっくりと山頂へ向かう。

エビス大黒ノ頭。仙ノ倉は雲の中 エビス避難小屋 仙ノ倉山直下からエビス大黒ノ頭を見る
エビス大黒ノ頭。仙ノ倉は雲の中 エビス避難小屋 内部。仙ノ倉山頂部の雲がとれた! 仙ノ倉山直下からエビス大黒ノ頭を見る

道が緩やかになり平標山が見えてきた。空がどんよりした雲に覆われて体が冷えてきた頃仙ノ倉山頂に着いた。

仙ノ倉山山頂 仙ノ倉山山頂

感動の一つでもするかと思っていたが意外に普通な自分がいた。
ここからラストスパート。ワッフルを口の中に押し込んで燃料補給する。平標登山口までCTにして約3時間。急がないと15時半のバスに間に合わない。

ここからは平標山までは木道が整備された散歩道が続く。いつもは賑わうこの道も晩秋になるとこれほど静かなものなのか。平標山から東の空を眺めると今日歩いて来たコースが霞んで見えていた。

松手山へ下り始めると長い尾根の末端が樹林帯に消えているのが見える。歩きながらずっと思っていたことだが、この縦走コースの特筆すべきは”展望”だろう。 初日の白毛門手前の松ノ木沢ノ頭からと考えると、CTにして20時間もの間、一度も樹林帯に入ることなく展望が続くコースなのだ。 裏を返せば悪天になれば逃げ場がなくなるということだが、本当の意味での避難小屋が要所要所に点在しているのも納得できる。
まさに「奇蹟の縦走路」と呼ぶにふさわしいコースだ。

平標山へ 平標直下から谷川方面を見る 松手山への最後の展望ルート
平標山へ 平標直下から谷川方面を見る 松手山への最後の展望ルート

駆け下りるように平標登山口へは15時に到着。両手を突き上げて「やったー!」と1人喜ぶ。

バス停でジュースを飲んで落ち着きたかったが、登山口のバス停も自販機も見当たらない。はて?と思ったが元橋のバス停も近いし、そちらには自販機があるかもという期待で5分ほど歩く。 元橋バス停まで来たところ、お客さんを乗せたペンションのバスが急に停まってバックしてきた。「どこまで? え、越後湯沢駅? じゃ乗っていきなよ」と、ありがたいお言葉。

さて越後湯沢駅から土合駅行き電車の次の時刻は17:55。まずは駅の立ち食い蕎麦屋で定番の天玉ソバを食べる。うまい。たった1泊しかしていないのに久しぶりに食べる生ものに感じる。 日本酒がずらりと並ぶお土産コーナーで時間をつぶし、電車に乗るころは外は真っ暗になっていた。2時間も待っていたのに土合駅へはあっという間だった。

平標登山口の駐車場 土合駅 この駅で降りるなんて山屋になった気分だ 土合橋の駐車場
平標登山口の駐車場 土合駅 この駅で降りるなんて山屋になった気分だ 土合橋の駐車場

土合駅は山合いにポツンとある駅だ。ホームの待合室や改札内では登山者が寝袋を敷いて談笑している。駅を出ると辺りは真っ暗なのでヘッドランプを取り出して歩く。

明かりのない山の国道を10分歩いて土合橋の駐車場に到着した。時刻は18時37分。
出た時も戻ってきた時も暗いことが可笑しくて、ニヤけながら車のドアを開けて山旅が終わった。
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